三角関数の有理関数の定積分 (1)

三角関数の有理関数を積分する方法は多くの微積分の教科書に書かれているが、定積分についてはあまり触れられていない。定積分を考えていると、面白い謎が生じたので検証してみた。

定積分の謎

例として、三角関数の有理関数の不定積分 \( \displaystyle \int \frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta} \) を求めてみよう。\( t=\tan \frac{\theta}{2} \) と置き換えるのが定番の方法である。

\( \begin{eqnarray}
\int \frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta}
&=& 2 \arctan \frac{t}{3} + C \\
&=& 2 \arctan \left( \frac{1}{3} \tan \frac{\theta}{2} \right) + C \\
\end{eqnarray} \)

得られた原始関数を \( F(\theta) = 2 \arctan \left( \frac{1}{3} \tan \frac{\theta}{2} \right) \) とおく。この積分の区間 \( [ 0 , 2\pi ] \) における定積分を求めよう。

\( \begin{eqnarray}
\int_0^{2\pi} \frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta}
&=& \left[ F(\theta)\right]_0^{2\pi}
\,=\,0 \,-\, 0 \,=\,0 \\
\end{eqnarray} \)

被積分関数は正なので、明らかにおかしな結論である。どこに問題があったのだろうか。よく見ると \( F(\theta) \) の中の \( \tan \frac{\theta}{2} \) が \( \theta = \pi \) で発散するのである。しかし、少なくとも \( 0 \leq \theta < \pi \) では連続関数 \( \displaystyle \int_0^\theta \frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta} \) と等しいはずで \( \theta \rightarrow \pi \,-\, 0 \) で収束するはずである。この謎の解決は後回しにして、別の方法で求めてみよう。

別の求め方

\( \theta = \pi \) に問題があることが分かったので、そこを避けて計算してみよう。積分を3つに分けると、両端の2つは原始関数 \( F(\theta) \) を用いて求まる。

\( \begin{eqnarray}
\int_{0}^{\pi} \frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta}
&=& \left( \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} + \int_{\frac{\pi}{2}}^{\frac{3}{2}\pi} + \int_{\frac{3}{2}\pi}^{\pi} \right) \frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta} \\
&=& \int_{\frac{\pi}{2}}^{\frac{3}{2}\pi}\frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta}
+ 4\arctan \frac{1}{3} \\
\end{eqnarray}
\)

残った積分値を求めるために、\( \tau = \theta \,-\, \pi \) と置き換える。

\( \begin{eqnarray}
\int_{\frac{\pi}{2}}^{\frac{3}{2}\pi} \frac{3\, d\theta}{5+4\cos \theta}
&=& \int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \frac{3\, d\tau}{5-4\cos \tau} \\
&=& \left[ 2\arctan \left( 3\tan \frac{\tau}{2} \right) \right]_{-\frac{\pi} {2}}^{\frac{\pi}{2}} \\
&=& 4\arctan 3
\end{eqnarray} \)

公式 \( \arctan x + \arctan \frac{1}{x} = \frac{\pi}{2} \) を使えば、積分値 \( 4\arctan 3 +4 \arctan \frac{1}{3} = 2\pi \) が得られる。

謎の解決

不連続点が生じた謎を解く。問題は \( F(\theta) = 2 \arctan \left( \frac{1}{3} \tan \frac{\theta}{2} \right) \) 中の \( \tan \frac{\theta}{2}\) が \( \theta=\pi \) で発散することにあった。しかし、よく見るとその外に \( \arctan \) がある。\( \arctan ( +\infty ) = \frac{\pi}{2} \) なので、\( \displaystyle \lim_{\theta\rightarrow {\frac{\pi}{2}-0} } F(\theta) = \pi \) となる。一見、謎が解決したようだが新たな謎が生じる。\( \theta\rightarrow {\frac{\pi}{2}+0} \) における極限を求めると、\( \displaystyle \lim_{\theta\rightarrow {\frac{\pi}{2}+0} } F(\theta) = 2\arctan(-\infty) = – \pi \) となり、左右からの極限値が異なるため \( F(\theta) \) は不連続となってしまう。このずれはどうして生じてしまうのか。そういえば \( \arctan \) は多価関数であった。分枝の差は \( \pi \) の倍数だから、連続になるように選び方を調節すれば上手くいきそうだ。主値に固定していたことが問題だったのだ。\(F( \theta )\) を次のように定義し直せばよい。\(n\) は整数、\( \arctan \) は主値を取る。

\( \begin{eqnarray}
F( \theta ) &=&
\left\{
\begin{array}{ll}
2 \arctan \left( \frac{1}{3} \tan \frac{\theta}{2} \right) + 2n\pi
& (\, (2n-1)\pi < \theta < (2n+1)\pi \,) \\
(2n+1) \pi
& (\, \theta = (2n+1) \pi \,)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray} \)

これで積分値を求めると \( \displaystyle \left[ F( \theta ) \right]_0^{2\pi} = 2\pi \) となる。

微積分の範囲では多価関数が出てきても主値を選ぶことがほとんどで、まさかこんな形で全ての分枝が繋がってくるとは意外だった。