局所化と零因子

局所化の定義は零因子を意識しているとしか思えないが、私が読むレベルのテキストではその辺りは触れていない。少し検討したことを記録しておく。

局所化の定義

可換環 \(A\) とその積閉集合 \(S\) に対して、局所化 \(S^{-1}A\) を構成する。積閉集合の定義は次の条件 (3.は採用しない定義もあるようだ)
1. \(s_1,s_2\in S \Rightarrow s_1s_2 \in S \)
2. \( 1 \in S \)
3. \( 0 \not\in S \)
を満たすことである。\( \frac{a}{s} \, (a\in A,\,s\in S) \) は分母が制限された分数と考えることができるが、約分して等しい分数は同値とみなすために同値類を次のように定義する。

\( \begin{eqnarray}
\frac{a_1}{s_1} \sim \frac{a_2}{s_2}
& \Leftrightarrow & \exists s \in S \, \mathrm{s.t.} \, ( a_1 s_2 \,-\, a_2 s_1 ) s = 0
\end{eqnarray} \)

\(S\) に零因子がなければ、上の定義で \(s\in S\) は必要ない。ところが零因子がどう影響するのかは私の読むレベルのテキストでは書かれていない。

局所化の性質

積閉集合 \(S\) に対して、\( T = \{ t \in R ; \exists s\in S \,\mathrm{s.t.} \, st = 0 \} \) を定義しよう。明らかに \(T\) の元は零因子である。必要はないが \(T\) が \(A\) の ideal となることを示そう。\( t_1,t_2 \in T \) に対して、\( s_1t_1=s_2t_2 = 0 \) となる \( s_1,s_2 \in S \) がある。\(S\) が積閉だから、\( s_1s_2\in S \) が成り立つ。 \( (t_1+t_2) s_1s_2=0 \) だから \( t_1+t_2 \in T \)。\( a\in A,\,t\in T \) に対して \( at \in T \) は明らか。次に \( \frac{a}{s} = 0 \Leftrightarrow a \in T \) を示す。

\( \begin{eqnarray}
\frac{a}{s} = \frac{0}{1}
&\Leftrightarrow& \exists s’\in S \,\mathrm{s.t.}\, as’ = 0 \\
&\Leftrightarrow& a \in T
\end{eqnarray} \)

こうして局所化により \(T\) の元は 0 と見なされることが分かる。

具体例として \( A = \mathbf{Z}/6\mathbf{Z} = \{0,1,2,3,4,5\},\, S= \{ 1,4 \} \) を考える。この時、\(T,S^{-1}A \) は次のようになる。

\( \begin{eqnarray}
T &=& \{0,3\} \\[1mm]
S^{-1}A &=& \left\{ 0,1,2,4,5,\frac{1}{4},\frac{2}{4},\frac{5}{4} \right\}
\end{eqnarray} \)

ちなみに、\(\frac{2}{4}\) は \(\frac{1}{2}\) と約分できない。