ガンマ関数 3つの定義

ガンマ関数には同値な定義が幾つかある。それぞれの利便性が異なるのでまとめてみた。解析入門 I (杉浦光夫)で現れた3つの定義を取り上げる。

定義1 積分による定義

最もスタンダードな定義は積分を使った \(\displaystyle \Gamma(x) = \int_0^\infty e^{-t} t^{x-1}\,dt\) である。複素関数論でも扱いやすく、積分は \( \mathrm{Re}( x ) > 1 \) で収束する。また、公式 \( \Gamma(x+1) = x \Gamma(x) \) を繰り返し使えば、( 0 と 負の整数を除いて) 全複素平面に拡張できる。

定義2 Gauss の公式

Gauss の公式は極限で表現された式である。Gauss の名前がついてはいるものの、Euler が先に発見していたらしい (ガンマ関数入門(E.アルティン, 上野健爾訳) 第2章 訳注)。

\(\begin{eqnarray}
\Gamma(x) &=& \lim_{n\rightarrow\infty} \frac{n!\,n^x}{x(x+1)\cdots(x+n)}
\end{eqnarray} \)

無限積を議論するときに便利そうである。強引に無限積で表現すれば \(\displaystyle \frac{1}{x(x+1)}\prod_{n=2}^\infty \frac{n}{x+n}\left( \frac{n}{n-1} \right)^x \) となるが、あまり見かけない気がする。極限で表現されているので、\(x>0\) に制限する必要はない。Gauss の公式では、\( x=0,-1,-2,\cdots \) が1位の極であることが良く分かる。また、\( x=1 \) を代入してみると確かに \( \displaystyle \Gamma(1) = \lim_{n\rightarrow\infty} \frac{n}{n+1} = 1 \) となる。

複素解析(高橋礼二)では Gauss の公式を定義として採用している。ただし、定義に至るまでに収束の議論が大変であり初学者向けではない。解析入門 I ではガンマ関数を拡張する際に Gauss の定義を用いている (\(\S 15\) 定義1)。三角関数や指数関数が一旦定義されてテイラー展開などが導出された後、改めて冪級数として定義され直されるのに似ている気がする。

定義3 性質による定義

\( x > 0 \) で次の3つの条件を満たす関数 \(f(x)\) が唯一定まり、ガンマ関数の定義とする。

(1) \( f(x+1)=xf(x) \)
(2) \( f(x)>0 \) で \( \log f(x) \) が凸関数
(3) \( f(1) = 1 \)

ガンマ関数入門 や 解析入門 I では、定義1で定義した後、定義3との同値性を示している。定義では \(f(x)\) の連続性すら仮定されていない。\(C^2\) 級を仮定すれば証明が簡単にならないか考えてみたことはあるが、私には思いつかなかった。\(f(x)\) が (1), (2) のみを満たす場合、 \( f(x)=f(1)\Gamma(x) \) となる。これは \( g(x)=f(x)/f(1) \) が (1)-(3) を満たすことから分かる。この定義は行列式を性質から定義する流儀を連想させる。多重線型性と交代性を満たすと行列式のスカラー倍となり、単位行列に対する値を定めると行列式が得られる。定義3から \(f(x)\) は Gauss の公式として求まり、一意性も証明される。定義1で定義したガンマ関数は (1)-(3) を満たすので、Gauss の公式とも一致する。定義3からは直接拡張することは難しそうであるし、複素関数論との親和性も低そうである。

定義2の応用 Weierstrass の公式

Weierstrass の公式はガンマ関数の積公式であるので、証明には Gauss の公式が使いやすそうである。Euler の定数 \( \displaystyle \gamma = \lim_{n\rightarrow\infty} \left( \sum_{k=1}^n \frac{1}{k}- \log n \right) \) が必要になるが、極限の存在についてはとりあえず保留しておく。

\( \begin{eqnarray}
\Gamma(x)
&=& \lim_{n\rightarrow\infty} \frac{n!\,n^x}{x(x+1)\cdots(x+n)} \\
&=& \lim_{n\rightarrow\infty} \frac{e^{x\log n}}{x(1+\frac{x}{1})(1+\frac{x}{2})\cdots(1+\frac{x}{n})} \\
&=& \lim_{n\rightarrow\infty} \frac{e^{x(\log n-\sum \frac{1}{k})}}{x}\frac{e^{\frac{x}{1}} e^{\frac{x}{2}}\cdots e^{\frac{x}{n}}}{(1+\frac{x}{1})(1+\frac{x}{2})\cdots(1+\frac{x}{n})} \\
&=& \frac{e^{-\gamma x}}{x} \prod_{n=1}^\infty \frac{e^{\frac{x}{n}}}{ 1+\frac{x}{n} } \\
\end{eqnarray} \)

最後の式が Weierstrass の公式であるが、逆数 \( \displaystyle \frac{1}{\Gamma(x)} \) の公式で表現されることも多い。ちなみに無限積は \( \displaystyle \frac{\prod e^{\frac{x}{n}}}{\prod \left(1+\frac{x}{n}\right)}\) とは書けない。分母、分子が単独では収束しないからである。Weierstrass の公式も極の様子を良く表している。Weierstrass はこの公式を定義としたという (ガンマ関数入門 第2章 訳注)。

\(\gamma\) の存在証明

\( \gamma \) の存在を示そう。\( \displaystyle \gamma_n = \sum_{k=1}^n \frac{1}{k} \,-\, \log n \) とおく。\( \gamma_n \) が単調減少で下に有界であれば \( \displaystyle \gamma=\lim_{n\rightarrow\infty} \gamma_n\) が存在する。

\( \begin{eqnarray}
\gamma_{n+1}-\gamma_n
&=& \frac{1}{n+1} + \log \left( \frac{n}{n+1} \right) \\
&=& \frac{\frac{1}{n}}{1+\frac{1}{n}} + \log \left( \frac{1}{1+\frac{1}{n}} \right) \\
&=& 1 \,-\, \frac{1}{1+\frac{1}{n}} \,-\, \log \left( 1+\frac{1}{n} \right) \\\end{eqnarray} \)

\( \displaystyle g(x) = 1\,-\,\frac{1}{1+x} \,-\, \log \left( 1+x \right) \) とおくと、\( \displaystyle g'(x) = \frac{-x}{(1+x)^2} < 0, \, g(0)=0 \) より \(x>0\) において \(g(x)<0\)。したがって、\( \gamma_n \) は単調減少。次に有界性を示す。\( \displaystyle \gamma_n = \sum_{k=1}^n \frac{1}{k} \,-\, \log n > \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{k} \,-\, \int_1^n \frac{1}{x} \,dx > 0 \) で、 \(\gamma_n\) は下に有界。

定義3の応用 倍角公式

倍角公式は次の公式である。

\( \begin{eqnarray}
\Gamma(2x)
&=& \frac{2^{2x-1}}{\sqrt{\pi}} \Gamma(x) \, \Gamma\left( x+\frac{1}{2}\right)
\end{eqnarray} \)

次のように変形しても使いやすそうである。

\( \begin{eqnarray}
\Gamma(x) \, \Gamma\left( x+\frac{1}{2}\right)
&=& 2^{1-2x}\sqrt{\pi} \,\Gamma(2x)
\end{eqnarray} \)

解析入門 I では、\(x\) を \( \displaystyle \frac{x}{2}\) に置き換えて、\( \displaystyle \frac{1}{2} \) 公式と呼び、証明に定義3を適用しやすい。\( \displaystyle f(x) = 2^{x}\, \Gamma\left( \frac{x}{2}\right) \, \Gamma\left( \frac{x}{2}+\frac{1}{2}\right) \) とおき、\(f(x)\) が定義3の (1), (2) を満たせば、\( f(x) = f(1)\Gamma(x) \) が得られる。まず、(1) を示す。

\( \begin{eqnarray}
f(x+1)
&=& 2^{x+1}\, \Gamma\left( \frac{x}{2}+\frac{1}{2}\right) \, \Gamma\left( \frac{x}{2}+1\right) \\
&=& 2^x\,x\,\Gamma\left( \frac{x}{2}\right) \, \Gamma\left( \frac{x}{2}+\frac{1}{2}\right) \\
&=& xf(x)
\end{eqnarray} \)

続いて (2) を示す。\( \displaystyle \log f(x) = x \log 2 + \log \Gamma\left(\frac{x}{2}\right) + \log \Gamma\left(\frac{x}{2}+\frac{1}{2}\right) \) である。\(\displaystyle \left( \log f(x) \right)^{\prime\prime} > 0 \) を示せば良い。第1項の2回微分は消滅する。ガンマ関数が \(\displaystyle \left( \log\Gamma(x)\right)^{\prime\prime} > 0\) を満たすことから、\(\displaystyle \left( \log \Gamma\left( \frac{x}{2} \right) \right)^{\prime\prime} >0 \), \( \displaystyle \left( \log\Gamma\left( \frac{x}{2}+\frac{1}{2} \right) \right)^{\prime\prime}>0 \) も成り立つ。以上で、(1), (2) を満たすことが示された。

\( \begin{eqnarray}
f(x)
&=& 2^{x}\, \Gamma\left( \frac{x}{2}\right) \, \Gamma\left( \frac{x}{2}+\frac{1}{2}\right) \\
&=& f(1) \, \Gamma(x) \\
&=& 2\Gamma\left( \frac{1}{2} \right) \, \Gamma( 1 ) \, \Gamma(x) \\
&=& 2\sqrt{\pi} \,\Gamma(x)
\end{eqnarray} \)

第2式と最後の式で \(x\) を \(2x\) で置き換えると倍角公式が得られる。