非単拡大の中間体

テーマは アルティン著「現代代数学特論」4.4中間体 から。次の定理が紹介されている。(明示的に定理としてまとめられているのではなく、内容をまとめたものである。)\( E/F \) は有限次拡大とする。

\( E/F \) が単拡大 \( \Leftrightarrow \) \( E/F \) の中間体は有限個

これは 「\( E/F \) が非単拡大 \( \Leftrightarrow \) \( E/F \) の中間体は無限に存在する」と同値であり、この具体例に興味が湧いた。分離拡大ならば単拡大であることが知られているので、非単拡大を見つけるためには非分離拡大でなければならない。非分離拡大は正標数かつ無限体である必要がある。そこで標数2の関数体で考えよう。非分離拡大は単拡大とは限らない。\( F= {\bf F}_2 (x^2), E=F(x)={\bf F}_2 (x) \) が典型的な非分離拡大の例であるが、これは見ての通り単拡大である。

単拡大でない例としては \( F= {\bf F}_2 (x^2,y^2), E=F(x,y)={\bf F}_2 (x,y) \) がある。この例は本にも練習として掲載されているが、具体的な無限個の中間体には触れられていないので、実際に次の系列を構成してみた。

\( K_n = {\bf F}_2 ( x+x^{2n}y ) \)

\( F \subset K_n \subset E \) は明らかである。\( F/E \) は4次拡大である。\(K_n\) が無限個の中間体系列をなすことを示すためには、\( K_n / F \) が2次拡大であることと各 \(K_n\) が異なることを示せば良い。

\( t_n=x+x^{2n}y \) とおくと \( t_n^2= x^2 + x^{4n} y^2 \) なので \( K_n/F \) は2次以下の拡大である。\( t_n \not\in F \) を示す。\( t_n \in F \) と仮定すると、\( \displaystyle t_n = \frac{g(x^2,y^2)}{f(x^2,y^2)} \) となる0でない2変数多項式 \( f,g \) が存在する。\( f(x^2,y^2)\left( x+x^{2n}y \right) =g(x^2,y^2) \) の各項は左辺では奇数次、右辺では偶数次であり矛盾する。よって、\( K_n / F \) は2次拡大である。

\(m\neq n\) に対して、\( K_m \neq K_n \) を示す。\( K_mK_n=F(t_m,t_n) = E \) を示せば良い。\( t_n – t_m = \left( x^{2n} – x^{2m} \right) y \) より \( y\in F(t_m,t_n),\, x=t_n- x^{2n}y \in F(t_m,t_n) \) 。したがって、\( K_m \neq K_n \) が示せた。以上により、\(K_n\) は異なる中間体である。