連分数(木田雅成) 第8章

連分数の第8章命題8.15で、ある行列が対称行列であることを示している。計算が強引に感じるので、線形代数の基礎的なテクニックを使って計算のストレスを軽減してみた。

対称行列の証明

p.87 では
B=(011a0)(x/2myyx/2)(1a001)
が対称行列であることを示している。これを B=XYtX (Y は対称行列) の形に変形することにより示したい。 線形代数の基礎的なテクニックである行基本変形
(1a001)(011a0)
を行列の積で表現して
(0110)(1a001)=(011a0)
(1a001)=(0110)(011a0)
これを代入して
B=(011a0)(x/2myyx/2)(0110)(011a0)
となり、目標の形における X=(011a0) が現れた。
Y=(x/2myyx/2)(0110)=(myx/2x/2y)
Y が対称行列であることが確認できたので B は対称行列である。

p.88 における
B=(011a0)((x+4y)/2(m1)y4y(x4y)/2)(11a001)
が対称行列であることも同じように示そう。行基本変形
(11a001)(0111a0)(011a0)
を行列の積で表現して
(1011)(0110)(11a001)=(011a0)
(11a001)=(1110)(011a0)
これを代入して
B=(011a0)((x+4y)/2(m1)y4y(x4y)/2)(1110)(011a0)
Y=((x+4y)/2(m1)y4y(x4y)/2)(1110)=((x+4y)/2(x+4y)/24y)
ここで対称性を示すために対角成分は不要。Y の対称性が示せたので、B も対称行列である。

命題8.15証明における注意

命題8.15の証明の中で対称性が利用されている部分(p.87)については、注意が必要と感じた。対称行列であることを使って、次の等式が示されている。
(a1110)(at1110)=(at1110)(a1110)
テキストでは、ここから直ちに (a1,,at1)=(at1,,a1) と結論付けているが、この等式は積が等しいことを意味しているので、対応する個々の行列が等しいとするには抵抗がある。行列の積を (pq) とするとき、pq=[a1;,at1]=[at1;,a1] となる。有理数の連分数展開は2通りあるが、同じ長さの連分数展開は唯一。したがって、この等式の連分数は一致する。

その他

p.92 の一番上の式で (1)n が抜けてる?執筆時では訂正は出ていない。Bn=pn12mqn12 とすれば良さそうにも見えるが、An0 が示せず困っている。