「脳外科医 竹田くん」を読んで自分が勤めていた大学の脳外科医を思い出した。技量については分からないが、思想がやばそうだった。参加していた医学部の学生も同様だった。
私の勤めていた地方国立大は一応は総合大学で医学部もあった。全学で学生との交流をするという企画があった。各学部から何人か参加させなければならず、工学部からは私に依頼があった。学内でもあまり知られていないイベントであり、私もこの時に初めて存在を知った。参加者は近くにある観光地のホテルにバスで送られた。イベントは一泊で他学部の准教授と同じ部屋に宿泊した。企画らしいことは夕食時くらいで形だけのイベントだった。席は自由で、出来るだけ同じ学部で固まらないで下さいというアナウンスはあったかもしれない。同室の教員と一緒に着席していると、同じテーブルに医学部の助教と学生が着席した。夕食前に少し企画があったがほとんど憶えていない。クイズというか性格診断でありそうなある場面でどれを選ぶかというお題だったと思う。テーマは憶えていないが、医学部の教員が問題に答え、選んだ理由について「医者は正義であり、人として間違った選択はしない。」と語っていた。医者は他の人々とは違うと言わんばかりのエリート意識だ。このような場所で他学部を見下すような発言をするのが正義なのか?
良く分からない企画は終わり、夕食に移行した。同席した医学生は他学部の教員には関心が無いようで、医学部の助教とのみ話をしていた。私たちも関心が無いので会話もせず黙って聞いていた。助教は脳神経外科が専門だという。学生は再入学らしい。出身は農学部あたりか?学生と助教の間で次のような会話が交わされた。
学生 「どうして医者になったんですか?」
助教 「医者にならないと人間の脳に触れないからだ。医者でなくても猿の脳では実験できるが、人間の脳に触れられるのは医者だけだ。医者なら治療と称して少しは触ることが出来る。ほんの少しだけだけど。」
少しというところを強調していた。学生はうんうんと頷いていた。
学生 「やっぱりそうですよね。仕事をしていた時、採血をするだけでも看護師以上の資格が必要で、面倒臭くてかないませんでした。それで医学部に入り直したんですよ。」
彼らにとって患者は研究題材でしかないのだろう。「脳外科医 竹田くん」を読んでこの会話が思い出された。このイベントで医学部の傲慢さを初めて目にすることになった。この後、大学の実験を握った医学部が傲慢な要求を他学部に次々と押し付けてくるのを目の当たりすることになる。