ベクトル三重積の公式の成分計算を使わない証明方法がなかなか見つけられなかった。そもそも外積は成分を使わず幾何学的に定義できるので、成分を使わずにできるはずと思う。試みた証明をここに書き留めておく。
ベクトル三重積の公式
3次元ベクトル \( \vec{a}, \vec{b} \) に対しては次の性質を満たすベクトル \(\vec{p}\) が一意に定まる。このベクトル \(\vec{p}\) を \( \vec{a}, \vec{b} \) の外積と呼び \(\vec{a}\times\vec{b}\) で表す。
- \(\vec{p}\) は \(\vec{a},\,\vec{b}\) に直交する。
- \(\vec{p}\) の大きさは \(\vec{a},\,\vec{b}\) が成す平行四辺形の面積に等しい。
- \(\vec{a},\,\vec{b},\,\vec{p}\) は右手系を成す。
ベクトル三重積の公式とは、3次元ベクトル \( \vec{a}, \vec{b}, \vec{c} \) の間に成り立つ次の公式である。
\( \left( \vec{a}\times\vec{b} \right) \times \vec{c} =
\left( \vec{a}\cdot\vec{c} \right) \vec{b} \,
– \left( \vec{b}\cdot\vec{c} \right) \vec{a} \)
準備
2つの直交する単位ベクトル \(\vec{e}_x,\,\vec{e}_y\) を考え、\( \vec{e}_z = \vec{e}_x \times \vec{e}_y \) と定義する。 \(\vec{e}_x,\,\vec{e}_y,\,\vec{e}_z\) を標準単位ベクトルと同様にみなせば、図形的な性質から次の式が成り立つ。
- \( \vec{e}_x \cdot \vec{e}_x =\vec{e}_y \cdot \vec{e}_y =\vec{e}_z \cdot \vec{e}_z = 1\)
- \( \vec{e}_x \cdot \vec{e}_y =\vec{e}_y \cdot \vec{e}_z =\vec{e}_z \cdot \vec{e}_x = 0\)
- \( \vec{e}_x \times \vec{e}_y =\vec{e}_z \)
- \( \vec{e}_y \times \vec{e}_z =\vec{e}_x \)
- \( \vec{e}_z \times \vec{e}_x =\vec{e}_y \)
証明
まず、\(\vec{a},\,\vec{b}\) が1次独立の場合を証明する。\(\vec{e}_x\) を \(\vec{a}\) と平行にとり \(\vec{a}=a_x\vec{e}_x\) と表す。\(\vec{e}_x,\,\vec{e}_y\) が張る平面上に \(\vec{b}\) が含まれるように \(\vec{e}_y\) をとり、 \(\vec{b}=b_x\vec{e}_x+b_y\vec{e}_y\) と表す。\(\vec{e}_x,\,\vec{e}_y\) の選び方は複数あるが、どれでも良い。
\(\vec{e}_x,\,\vec{e}_y,\,\vec{e}_z\) は3次元ベクトル空間の基底なので、\(\vec{c}=c_x\vec{e}_x+c_y\vec{e}_y+c_z\vec{e}_z\) と表すことが出来る。ここで公式の右辺に現れる内積を先に計算しておこう。
\( \begin{eqnarray}
\vec{a}\cdot\vec{c} &=& a_x c_x\\
\vec{b}\cdot\vec{c} &=& b_x c_x + b_y c_y
\end{eqnarray}\)
以上の準備の下で公式を証明する。
\(\begin{eqnarray}
\left( \vec{a} \times \vec{b} \right) \times \vec{c}
&=&
a_x b_y \vec{e}_z \times
\left( c_x\vec{e}_x+c_y\vec{e}_y+c_z\vec{e}_z \right) \\
&=&
a_x b_y c_x \vec{e}_y
\,-\, a_x b_y c_y \vec{e}_x \\
&=&
a_x c_x \left( \vec{b} \,-\, b_x\vec{e}_x \right)
\,-\, a_x b_y c_y \vec{e}_x \\
&=&
a_x c_x \vec{b} \,-\, \left( b_x c_x
+ b_y c_y \right) \vec{e}_x \\
&=&
\left(\vec{a}\cdot\vec{c}\right) \vec{b} \,-\, \left( \vec{b}\cdot\vec{c} \right) \vec{a}
\end{eqnarray}\)
次に \( \vec{a},\,\vec{b} \) が一次従属の場合を証明する。このとき \( (左辺)=0\) なので、 \( (右辺)=0\) を示せば良い。\( \vec{a}=a_x\vec{e}_x,\,\vec{b}=b_x\vec{e}_x \) (\(a_x,\,b_x\) が \(0\) の場合もある)と表せるように \( \vec{e}_x \) を取ることが出来る。\( \vec{c} = c_x\vec{e}_x + c_y\vec{e}_y + c_z\vec{e}_z \) と置き、公式の右辺を計算する。
\(\begin{eqnarray}
\left(\vec{a}\cdot\vec{c}\right) \vec{b} \,-\, \left(\vec{b}\cdot\vec{c}\right) \vec{a}
&=&
\left( a_x c_x \right) b_x \vec{e}_x
\,-\, \left( b_x c_x \right) a_x \vec{e}_x \,=\,\vec{0}\\
\end{eqnarray}\)
以上により、一次従属の場合も証明できた。
おわりに
ベクトル三重積の公式を成分計算を使わずに証明してみたが、いかがだっただろうか。成分計算よりは計算に飽きないと期待している。出来れば、もう少し精錬した証明にしたい。