准教授に昇進することになった。准教授になれば講義を受け持つことが出来る。ところが教務主任はデータベース演習のみの担当を求めてきた。私は演習のみの担当は納得できない、講義も担当させるよう求めた。演習だけなら他の助教を割り当てればよい。教務は私をデータベース担当から外した。専門家の響教授に演習も任せて、私には別の科目を割り当てた。響教授に演習を担当できる技量があるのだろうか。
響教授は演習の担当を打診されて、自信満々で引き受けたらしい。研究室付の技官が私の部屋に飛び込んできた。彼は研究室の事務、会計処理などを行っていた。実質的に研究室付の事務員である。響教授は演習を自信満々で引き受けたらしい。「任されちゃったよ」といかにも腕が鳴るといった感じで言ったという。響教授は「Linuxマシンを買え。そこに MySQLを入れる。」と指示した。響教授の感覚では Linux は自分でインストールするものではなく、インストール済みのマシンを購入するものらしい。これまで、PCはOS無しで購入して、学生がLinuxをインストールしていた。研究室にサーバを置くなら学生に設定させると予想していただけに、これは意外だった。私は教育用PCルームのマシンにインストールしていた。そもそも響研に所属していた間、私にはPCの購入費用は与えられていなかった。響教授がインストールに成功しても他の障壁がある。研究室内で上手くいっても、教育用PCからのアクセスはファイアウォールを経由しなければならない。相談されれば応じるつもりであるが、ネットワークの研究室なのだから自力で解決してもらいたいものだ。技官は響教授に「無理だから、四元さんに教材をもらってください。」と言ったそうだ。その通りだと思うが、頭から無理だと決めつけるのは失礼ではなかろうか。そこで私の方から申し出るように求めているのだ。そうはいかない理由がある。私の教材はPostgreSQLで作成されていて、MySQLでのやり直しを命じられていながら無視している。藪を突く訳にもいかない。申し出たとしても、自力で出来ないと言われたと解釈されて(その通りであるが)怒り出すかもしれない。兎に角、自信満々なのだ。根拠のない自身から私だけでなく学生にも無茶な要求をしがちである。この機会に身の程を知ってもらった方が良い。求められれば教材を引き渡すつもりはある。技官は買ったPCが無駄になることを気にしているようだ。しかし、響教授は研究室にほとんど予算を使わないそうなので、余ったPCは学生が利用出来て好都合でもある。
後日、響教授が私の居室に怒鳴り込んできた。戸を開けるなり、「引継ぎをしろ」といきなり怒鳴りつけた。やはり出来なかったようだ。どこで行き詰ったのかは分からない。
「私の教材はPostgreSQLのままです。先生はMySQLでないと駄目と言ったのではなかったのですか。」
「どっちだってフリーだからいいんだ」
怒り心頭なようだ。MySQLでやり直しを命じたことについては何も説明はない。思い通りに進まずイライラするのは分かるが、怒りが私に向けられるのは不条理である。こちらから引継ぎを申し出なかったことが不満だったのだろうか。しかし、私も前任者の教材を利用したい時は使わせて欲しいとお願いに行った。演習の場合は基本的に公開されているので、著作権に配慮する意味合いしかない。響教授も私の教材を勝手に持っていくことは可能なはずである。元々、求められた時は引き継ぐつもりだったので、教材を引渡して解説した。響教授から礼を言われることなかった。後に技官から「よくこれだけの教材を作ったものだ」と言っていましたよと聞いたが、直接言われることはなかった。